[ 淵 ]
「触れても、いいですか」
躊躇いがちにのばした手は、触れるか触れないかを薄く掠めるところで答えを待っていた。
真っ直ぐに己に向けられた漆黒がこくんと落ちたと思ったとき、彼は俺の名を呼びバカヤロウと、ちいさく笑んだ。
幾度も幾度も夢をみて、拒絶の言葉を突き付けられては戒めを強く刻んできた筈なのに。
時折うまれる衝動は、拒絶以上の悪夢を魅せる。
08.11.04