[ 水槽のマゼンタで染めて ] 昿るい空だ。 月の淡さはどうしてこう、滑らかに入り込んできて鎮めてくれるのか、酔心地も悪くねえ。 後ろで布団の捲くれるのが聞こえたが放っておいた、俺の名を呼ぶ声はくぐもってて、大人しく寝てろと振り返ることなく云い捨てたがもう遅かった。 「おー、いい月夜じゃねェか」 「テメーが起きてくるまではな」 「冷たいんだから晋ちゃんは」 「晋ちゃん云うんじゃねェ!」 蟀谷がひくつく。疲れる男だと、心底思う。じっと見詰められて仕方なく盃に一杯くれてやったというのに、団子はないのかと阿呆を抜かす銀時の、これの一体何処が夜叉だというのか。 「ンなもんねェよ」 真剣に哀しそうな面をしやがる、昔から思っていたが本当にこいつの天パは綿菓子でできているわけではないのだろうか。 「ねェもんはねェんだ、我慢しろ」 ひとつ、大袈裟に息を吐くと今度は手前で酒を注ぐその手は盃がちいさい所為なのか、こんなにでかかったかと錯覚する、蒼月の光の染み込んだしろいそれに、刀傷などない。 数刻前には、噎せ返る暗赤と鮮紅の混じった狂気に染まっていたなんて所詮、拭ってしまえば消えるのだ。かたちなんて残さずに。 「――――――」 来るとは思った、が、まさかそれが膝だとは。 しっくりくるようにもそもそと動いたらそれっきしで、いつもならふやけた笑いで擦り寄ってくるのに今は顔を向けてもこない。その代わり、所在無げな、武骨で繊細なくせして不器用なしろい手が、俺の長着をちいさく、つよく握った。 「ぎん、」 何だよ、やっぱりお前も怖いんじゃねェか銀時。酒だ女だ、鬼神だ武神だと担がれても結局はまだ餓鬼なんだよ、俺達は。苦しくて苦しくて、前に進み続けるだけのことがどうしてこんなに辛い。 「すこしだけ」 「・・・勝手にしろ」 わりィ、そうちいさく溢した銀時の音は俺にしか聞こえない、他の奴等は知らない、剥き出しの銀時。 背を屈めて包み込む。すこしだけ撫でる。 それでも喧騒もなにも聞こえない今も、確かに前に進んでいる。
戦。 |