[ ネガティブキス ] 「退けよ、暑苦しい」 伸びてきた陽の光が綺麗に眩しい。 安穏の中に身を置く俺は、今更何かをおもうことも、縋ることも願っていなかった筈だ。 「よく眠っておったぞ」 「誰の所為だ、誰の」 夢をみない夜が久しぶりだったと、云わずとも気付いてる辰馬の、枕元に置いてあった銃に触れる。 まるで水面に垂らされた墨のような、静けさの中にひろがる一筋の押し潰して押し潰して、押し潰してきたもんが消えている。ああ、また。 何処か悔しいのはきっと、この莫迦に振り回されてる俺自身が結局は、いつもこうして許してしまうのが決して流された先の結果じゃないからなんだと思う。 「また辛いときには、呼べばええ」 「別に、今度のだってテメェが勝手に来ただけだろーが」 「そうじゃったの、スマンスマン」 頭の悪そうな、この巫山戯た笑いはどうしてか嫌いじゃない。時によっちゃあ殺したくなるが。 「相変わらず綺麗な銀じゃー」 撫でようと伸びてきた掌を叩き落して俺は、一睨み向けてから阿呆臭さに欠伸が出た。 変わらないのはどっちだと、安堵を許せるこの一室が世界のすべてだったならば。 それは望んではいけない、無意味なものだと解っていてもどうやら俺は、随分と考えがふやけちまったみたいだと息を零す。 背を向けようと躰をずらして、許した証にひくりと腰が跳ねた。 そんな心配そうな顔をするのなら初めっから抱かなきゃいいだけの話。それとも俺がそう欲してたとでも、いうのだろうか、お前のその眸は。 いつも何かを云いたげにしている、云ってしまえばいいと俺には、云えない。 「今は力抜いて酔っていても大丈夫じゃき、な?」 絶えず背中をさすられていた感覚を、飛んでは堕ちていた意識の中で微かに覚えている。 眼を瞑って歯で抑えて、なのにいつの間にか解かれて溺れさせられてあずけてる、酒臭ェ筈の腕に俺は今まで何度揺られただろう。 やめてくれと、何度云っても無駄なんだろうこの莫迦は、他人に気を遣い過ぎて自分も俺と同じ面してるなんてことには気付いちゃいない。 口元は笑っているってのに、その眉間に刻まれた皺のほうが、余程。 胸の内を、お前は何処に吐いている?
07.05.27
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