ほら、こんなに簡単に触れられる。 ホント、虚しくて嫌になるよね。 [ 二重螺旋 ] 寝台の上で、ウェラー卿の手首を縛ってみた。もちろん彼は何の抵抗もしなかった。半ば諦めたような目で、僕をじっと見詰めている。 銀の光を散らした薄茶の虹彩。とても綺麗で、吸い込まれそうになる。もう、失笑するしかない。 今、瞬間、この瞳に写されているのは僕。 僕だけなのに。 「ねえ、何を見ているの?」 見てよ。僕を見てよ、お願い。 「足りない。こんなんじゃ、全然」 僕は彼を寝台に強く押し付け、胴に横から座った。ぎしりと板の軋む音が、静か過ぎるこの部屋と、静けさを失った僕の中に響く。 結んでいた紐を解いて、左手首を掬い上げる。彼の人指し指の付け根にゆっくりと舌を這わせ口に含み、そして、加減無くそれを噛んだ。 「う、ぐっ・・・」 肉の小気味悦い感触が、ぞくりと躰を貫く。じんわりと口内に広がる、鉄の味。 僅かに、躰が震えた。 きっとこれは喜びと、同時に感じた拭えない虚無感。 埋まらない。埋まらない。 彼の腕を伝い肘から滴る鮮血が、ぽたり、ぽたりと白いシーツを侵してゆく。ウェラー卿は片目を瞑り、苦しそうに額に汗を浮かべていた。その喘ぎにも似た途切れ途切れの呼吸に、僕はまた、どうしようもない独占欲を掻き立てられる。 もっと僕で縛りたい。 縛らせて。 右手で手首を掴んだまま口を離し、唇に付いた血を舌で舐め取った。そのままどさりと、彼の顔の横に肘を折り曲げた形で腕をつき、耳元に顔をうずめて言葉を吐いた。 「この血で染めてよ、僕のこと」 「そんなことをしても、貴方が・・・汚れてしまう、だけです・・・・・」 天井を仰いだままでウェラー卿は答えた。 「別に気なんて遣う必要ないんだよ? 僕が望んでることなんだし」 「違う俺は・・・俺が、汚れて欲しくないんです。貴方に」 その言葉に、僕は息が出来なくなった。 触れ合っている胸部から、この心音、伝わっちゃってる? 「・・・もう遅いよ、ウェラー卿」 僕をこんなに追い詰めたのは君なんだ。今頃そんなこと、云わないでよ。 「君は、本当にズルいよね・・・」 ダークブラウンの柔らかい髪を荒く掴む。 再び引き寄せた耳元に、ほとんど聞こえないような囁きを、甘く、静かに突き刺した。 「――――― 愛してるよ」 だから僕は君を犯す。 この愛しさが苦しさが憎しみが辛さが虚しさが君と交わることなんて、永遠に有り得ないと思うから。
SMを目指して見事玉砕。 |