その日の騒動は、おれの何気ない一言で始まった。 眞魔国での毎朝の日課・コンラッドとのジョギング゙も終わり、城の自室に戻る途中、ふと、おれの健気なアナログGショックの日付を見ると、なんだか見覚えのある数字が並んでいた。 「陛下、どうかしましたか?」 「陛下って呼ぶなって。いや…今日ってさ、おれの誕生日だったなぁって…」 「何ですとー!!!!?」 …廊下で、こんな話をしていたのが、間違いだったんだ… Dancing Birthday 「ギュ、ギュンター?」 「今日は陛下のお誕生日なのですか!!!?」 「そ、そうだけど…」 「あぁ!私したことが…陛下のお誕生日を耳に入れておかなかったとは…今すぐ民にふれを出して祭を…」 「祭ぃ!!?大袈裟だって!」 壁に頭を打ち付けかねないギュンターを宥めながら、続ける。 「誕生日のお祝いなんて、紙の輪っかの飾りとトリの唐揚げがあれば十分だって!!」 「あぁ!なんと謙虚な御心…流石陛下です!!では早速、城の者に言って陛下の御生誕記念パーティーの準備をいたしましょう!!」 「は!?ギュン……行っちゃったよ…」 コンラッドは、いつものように傍観している。 「いいじゃないですか。たまには盛大に祝われるのも」 「うーん…なんか嫌な予感がするんだよなぁ…」 動物的なカンが、黄信号を点滅させている。 そんなおれの心配をよそに、時は過ぎ、夜が訪れた。 コンコン 「ユーリ、仕度できた?」 おれの愛娘であるグレタが、少し開いた扉の間から顔を出す。 「あぁ、できたよ。…へぇ、グレタも可愛くしてもらったな」 グレタは髪を結い、かわいらしいドレスを着ている。 「うん!だってユーリのお誕生日だもん!!」 早く広間に行こう!、と急かすグレタに手を引かれ、部屋を出る。 笑顔でおれの隣を歩き、「グレタも飾りつけ、手伝ったんだよ〜」なんて言う娘を見ていると、あと何回、こうやって親父の誕生日を祝ってくれるのかなぁ、なんて考えが浮かんでくる。 …いや、今はそういうことを考えるのはよそう…。 「ユーリ?どうしたの?」 なんでもないんだよ、と言って、グレタの頭を撫でる。 そうこうしているうちに、広間の扉の前まで来ていた。 グレタが合図するようにノックすると、中の騒がしさが静まった。 そして、扉を開いた。 『ユーリ陛下、お誕生日おめでとうございます!!』 「みんなっ、ありがと…ぉ!!?」 ドォォォン!!!! 「ぅわ!!?」 扉を開くやいなや、轟音と共に前方から物体が飛んできた。 咄嗟に避けると、その物体は俺の上空で弾け、鳩や紙吹雪を撒き散らした。 「な…何だよ、アレ!!?」 「わたくしからのお誕生祝いです、陛下!!」 あぁ、その声は、もしかしなくても… 「アニシナさん…;」 寝る寝る子ども・フォンカーベルニコフ卿アニシナ嬢だ。 「以前、陛下がおっしゃっていた、『くらっかぁ』なるものに、わたくしなりの改良を加え、『魔動お祝い機・くらっかぁ君』を発明しました!!」 「へ、へぇ…」 おれ、大砲だ、なんて言ったっけ? 「ただ…消費魔力が大きいのが難点なので、更なる研究が必要なようです」 あぁ、そういえば、視界の端でギュンターが倒れてる… それからは、みんなからのプレゼント攻めに遭った。 今日一日で、『毒女アニシナ』が全シリーズ゙揃ってしまうほどだ。 食事も済み、話題も尽きてきた頃、室内に緩やかな音楽が流れてきた。 「ユーリ、ダンスの時間だ」 「あ〜、そういえばそんなカンジの音楽が流れてるな」 「ぼくとおd「ユーリ、踊ろう!」な…グレタっ!」 ヴォルフが話しかけてこようとしたが、間に入ってきたグレタによって、それは遮られた。 「だめだっ!ユーリはぼくの婚約者だぞ!?ぼくと踊るんだ!!」 「おいおいヴォルフ〜、子ども相手にムキになるなよ〜;」 間に見えない火花が散る2人を宥めようとすると、背中に"あの"感触が伝わってきた。 「あらあら、2人とも!陛下はぁ、あたくしと踊るのよv」 「ツェリ様…;///」 「母上っっ!!!」 「陛下もあたくしと踊りたいわよね〜?」 「ユーリ!お前、自分が誰の婚約者だか、わかってるんだろうな!!?」 「ヴォルフ〜!ユーリは、グレタと踊るんだよ〜!!」 「あら〜、あたくしだって、久しぶりに陛下にお会いしたんだから、踊りたいわ〜」 「ぇ、えっと…;」 論争の中心のおれを無視し、3人の言い争いはエスカレートしていく。 あぁ…おれにどうしろと;……ん? 肩を叩かれたような気がして後ろを見るが、誰もいない。 が、外への扉が、僅かに開いていた。 3人に気付かれないように、席を立つ。 中庭に吹く風は、盛大なパーティーで興奮し、ほてった体に心地良かった。 月明かりが、おれをここに誘った人物を照らす。 「コンラッド…」 「こうでもしないと、2人きりになれそうになかったんで」 コンラッドは、おれの前まで歩み出ると、まるで、御伽話のように、跪づき、おれの手をとり、言った。 「ユーリ…一曲、踊っていただけませんか?」 「ょ…喜んで///」 広間から聞こえる、微かな舞踊曲にのせ、優しいステップを踏む。 耳元で、123…123…と囁く、低く、小さな響きが再び体を熱くする。 「…上手くなりましたね」 「コーチがいいからね」 コンラッドは、優しく微笑むと、そっと唇を重ねてきた。 「愛してる、ユーリ」 「ぉれも…」 しばしの間流れる甘い時。 ふいに、コンラッドが離れる。 「さぁ、そろそろ戻りましょう。みんなが心配する」 「ぁ…うん…」 おれが残念そうな声を出すと、彼はイタズラな笑みを浮かべ、囁いた。 「続きは、また後で」 今年の誕生日は、きっと一生忘れない。 大好きな人と過ごす、Dancing Birthday。 〜fin〜 鳳凰せつあ様から、こんな素敵な陛下誕生日SSを頂いちゃいましたv 次男の誘い方がロマンティック過ぎです…。 本当に有難うございました!! 05.07.31 |