伸ばした右手が掴んだのは、残像。 水時計 待っていたと言ったソイツはここにはいない。 今思えば、流れていった時間は全然ゆっくりじゃなかった。 退屈とはほど遠い日常の通過。 贅沢だった過去。 餓えを知らず与えられていることにも気付かなかった。 平気な顔して強がっていても信じることしかできないほどに弱い。 一人でいると押しつぶされそうになる。 それでも全てをリセットしたいとは思わないんだ。 「コンラッド」 「あなたが大切なんですよ。命なんていくらでも投げ捨てててしまえるくらいに」 水のように思い出は流れていく。 掬い上げても隙間から零れていくんだ。 「ユーリ」 あんたが付けてくれた名前はあんたに一番呼ばれたがってる。 他の、誰よりも。 背を向けて遠くなっていく後ろ姿にさらに霞がかっていく。 でももう伸ばすことはしない。 今度はおれが待つから。 「……リ。ユーリ」 「――ん。ヴォルフ?」 「夢見が悪かったのか? うなされていたぞ」 「いや。……懐かしすぎる夢を見ていたんだ」 そして決して元には戻れないと思い知らされた。 夢なんていう優しい響きの裏切りによって。 fin. 砂木依人様よりコンユ。思わず溜め息が出てしまうほどに綺麗な文章です。 切羽詰っていたときに依人さんに泣きついたら、元気付けに書いてくれました! 忙しい中、ジャンル違いなのに本当に本当にありがとっ! 06.04.01 |